マイティラインとは

【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑯「RNAワクチン、登場間近」

    • 2020年12月23日(水)
    • いいね新聞生活

「製造」は人体に任せる 急きょ実用化 功罪は未知数

新型コロナウイルスのワクチン開発で、米国の二つの製薬会社が「9割の効果があると確認された」と発表しました。ともにRNAワクチンという新しいワクチンで、日常を取り戻す第一歩になるとの期待も高まります。この新しいワクチンの仕組みをおさらいしてみましょう。(森耕一)

設計図

「ワープスピード作戦」が成功しつつあるのでしょうか。米政府は、通常は五年以上かかるワクチンを一年以内に完成させると宣言。11月に、ファイザーが95%効果があったと発表すると、モデルナも94%の効果と公表しました。

世界中で何百種類ものワクチン開発が進んでいる中でなぜRNAワクチンが早かったのかを探るため、まずRNAとは何かを確認しましょう。体をつくり、維持する中心となっている物質はタンパク質。そして、体内でどんなタンパク質をつくるかの設計図がDNAです。体中の細胞は、中心の細胞核にあるDNAに基づいてタンパク質を作り続けています。

DNAがそのままタンパク質を作るわけではありません。体についてのたくさんの情報が書き込まれているDNAから、必要な部分だけをコピーして、細胞内のタンパク質工場に届けるのがRNAです。この役割のRNAは特にm(メッセンジャー)RNAと呼ばれます。情報を受け取って必要なタンパク質が作られ、体中に届けられます。

RNAワクチンはこの仕組みを利用します。RNAを体に接種し、細胞に目的のタンパク質を作ってもらいます。

高速開発 

ワクチンは、ウイルスなどの病原体を弱らせたり、壊したりして接種し、あらかじめ体の免疫細胞に外敵を覚えてもらいます。免疫細胞がコロナウイルスを識別するには、表面のとがった「スパイクタンパク質」を標的にします。従来のワクチンはこのタンパク質を接種しますが、RNAワクチンの場合、設計図のRNAを接種し、体にスパイクタンパク質を作らせます。

一見遠回りに見えるこの方法で開発を速められるのは、遺伝子を読み取り操作するバイオテクノロジーが発展したおかげです。中国・武漢で最初の感染拡大が起きると、一月のうちにウイルスの遺伝子が解読されました。モデルナの場合そこから、わずか数日でワクチンにする部分のRNA配列を決めました。

さらに、今はRNAやDNAは配列が決まっていれば、比較的簡単に合成できます。モデルナのウェブサイトによれば、研究者がコンピューターに作りたい遺伝子配列を入力すると、機械が全自動で必要なRNAを合成してくれるといいます。

タンパク質は複雑に折り畳まれた構造をしているために、実験室や工場で合成するのは大変です。一方で、体の細胞は、タンパク質を作るプロ。きちんとRNAを読み取ってもらえば、うまく合成もしてくれます。ひとつのRNAが繰り返し働いて、数百~数千個のタンパク質を作るため、たくさん接種しなくても必要量を確保できます。

RNAではなく、DNAを使った同じようなワクチンもあります。二重らせん構造のDNAの方が丈夫な構造なのが利点で、一本の鎖のRNAは壊れやすいため、今回のワクチンもマイナス七〇度など低温での保存が必要です。一方DNAは細胞の中心の核で働き、丈夫で体に長く残るために接種した人の遺伝子に影響してしまう恐れが指摘されています。この点、細胞核の外側で機能し短時間で消えるRNAの方が安全性は高いとの見方もあります。

最新技術を駆使して素早く設計し、製造を人体に任せることで素早いワクチン作りが可能になったのです。もちろん、今回の感染拡大後に研究がゼロから始まったわけではありません。RNAを投与する新しい遺伝子治療は、特にがん治療や感染症での緊急ワクチン作りに役立つ可能性と期待されてきました。

モデルナも、ファイザーと組んで開発しているドイツのビオンテックも、RNAを専門に研究してきた新興企業です。うまく細胞に取り込んでもらうために、細胞膜とよく似た油脂の膜でRNAをくるむなどの技術開発も進めていました。

ただ現状は、まだ研究段階の技術を、急きょ実戦に投入した面も否めません。一度もRNAワクチンが実用化された例はありませんでした。感染を抑え込む幸運な結末か、短期間の治験では洗い出せなかった思わぬ副作用が広がってしまうのか、まだ分かりません。

(2020年12月7日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
※第三波が到来し、これから寒さが増すこれからが正念場です。日々の状況は新聞でご確認いただき、感染予防に努めて下さい。