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新聞記者

    • 2019年09月13日(金)
    • いいね新聞生活

今夏、「新聞記者」という映画が公開され、話題を呼びました。政権に不都合なニュースを操作する任務を与えられた若手エリート官僚と、権力の闇に迫ろうとする女性新聞記者。2人を軸に政権とメディア、組織と個人の狭間で葛藤する人間たちを描いた作品です。

エリート官僚を松坂桃李さん、女性記者を韓国人俳優のシム・ウンギョンさんが好演しました。扱っているのは硬派なテーマですが、サスペンス的な要素もあって飽きさせず、エンターテイメントとしても楽しめる映画です。公開以来、映画関係者の予想を上回る観客動員数で、この手の映画では異例のヒット作だそうです。

映画のエンドロールにも出てきますが、この映画の原案は、東京新聞(中日新聞東京本社)社会部記者の望月衣塑子さんの著書「新聞記者」(角川新書)によっています。本も読みましたが、映画はフィクションであり、別物でした。近年の政官界で相次いだ醜聞を連想させるような場面を入れ込んで脚本を練り上げ、キャスティング、演出を含め、うまく映画に仕立てた印象を持ちました。

新聞記者というと、颯爽としていて、真実を追求し権力に切り込んでいく姿をイメージする人もいるかもしれません。そのように記者を描いた映画は少なからずありますが、この映画に出てくる女性記者は、熱量が高く仕事熱心だけれど、不器用で、野暮ったささえ感じさせます。そこのところをシムさんは、上手に演じていました。

望月さんは著書で、駆け出しのころの失敗、取材先との衝突や怒り、周囲の無理解や叱咤激励などを振り返りながら、紆余曲折の記者生活を率直につづっています。映画のストーリーはフィクションであっても、等身大の女性記者を描くのに、この本がかなり役立っていると感じました。

官房長官の定例会見で一躍有名になった望月さんですが、評判は名古屋にいても以前から耳にしていました。「取材対象に食い込む力がすごい」と。本を読んで合点がいきました。

ほんの一例ですが、駆け出し時代、ネタ元をつくるために、前夜どんなに帰宅が遅くなっても、早朝マラソンを日課にしている県警幹部と一緒に走ったり、探偵並みに弁護士を尾行して自宅の住所を探し当てたり…と、体当たりの行動力と根性には舌を巻くばかり。自身の記者時代を顧みて、爪の垢でも煎じて飲んでいれば、と思うほどです。

望月さんは著書で、千葉支局時代に鑑識課のベテラン警部に言われたという印象深い言葉を紹介しています。「俺が話すかどうかは、どこの社とかじゃない。その記者がどれだけ事件への情熱を持って本気で考えているかどうかだ」。

守秘義務を侵してまで、記者に情報を提供してくれる人がいる。役人であっても記者であっても、結局は人間同士。「意気に感じる」という言葉があるように、時に組織の論理を超えた行動を起こす人間の妙も、この映画と本には描かれています。皆さんも機会があれば、ご一覧、ご一読ください。(有)