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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑦「特効薬を探せ」

    • 2020年08月19日(水)
    • いいね新聞生活

アビガン 難しい効果確認

新型コロナウイルスから日常を取り戻すには、治療薬やワクチンの開発が重要です。特に早く成果が出る可能性があるとみられてきたのが既にある薬の転用です。インフルエンザ治療薬のアビガンや、エボラ出血熱の治療薬レムデシビルで臨床試験の結果が出てきました。効果がありそうな一方で、状況を劇的に改善する「特効薬」とはいえないようです。(森耕一、永井理)

「1000人」集める壁

 東京都内在住の男性(51)は4月に新型コロナウイルス感染症を発症し39度台の高熱に襲われました。「意識もうろう、とにかく全身つらくて痛いという記憶しかない」といいます。高熱が出て4日目にアビガンを処方されたそうです。「ものがのどを通る状態ではなかったが薬だけは必死に飲んだ」。この男性の場合は、服用開始から1日後に体温がほぼ平熱に下がり3日後には、食事が取れるようになったといいます。

アビガンは劇的に効くのでしょか。今月7日、藤田医科大(愛知県豊明市)は、アビガンが新型コロナウイルスの無症状や軽症の患者に効果があるかを調べてきた臨床試験の結果を公表しました。「アビガンの有効性がないと結論づけることはできない」。なんとも歯切れの悪い結論でした。

5日間36人に投与し、投与しなかった33人と比べました。投与すると66%でウイルスが消え、投与しないと56%でした。解熱も投与した方が1日程度早くなりました。

土井洋平教授は「統計的有意差に達しなかった」と説明します。偶然いい結果が出て効果があるように見えた、という可能性が排除できないという意味です。一方で、効かないという結果でもありません。明確な結論を出せないまま研究を終了することになりました。

アビガンは国内で開発され、2014年に承認されたインフルエンザ治療薬です。肺などの細胞に侵入したインフルエンザウイルスの増殖を妨げます。増殖の仕組みは基本的にコロナウイルスも同じなので、効果が期待されてきました。

比較試験

ほかに治療薬候補として挙がっているのはインフルエンザやエボラ出血熱、マラリア、エイズなど他のウイルスの薬です。コロナに合う薬をゼロから開発するのは時間がかかりすぎるのです。

ゼロから開発するには、ウイルスを抑える効果がありそうな物質を探します。運良く見つかっても、動物実験や人に微量を投与して安全性を確かめる必要があります。重大な副作用がなければ、今度は投与する人としない人のグループに分け、最終的には1000人以上で比較して統計的に効果が確かめられれば、薬として認められます。急いでも2、3年かかります。

既にほかの病気で承認された薬なら、安全性は確かなので、効果を確かめる段階から始められ、早期の承認につながります。

とはいっても、比較試験をおざなりにはできません。土井教授は「200人が参加すれば有意差が得られ、効果が確認できた可能性がある」とも指摘します。統計では調べる人数が増えるほど、偶然の出来事という可能性を排除できます。研究は、全国で参加患者を募りましたが、5月中旬までに感染者が減少したこともあり、十分な人数が集められませんでした。

難航

アビガンは多くの病院で使用されてきました。大半は投与しない人と比較する形ではなく、アビガンの効き目か、患者自身の体力で治ったのかを評価できません。

治療現場での見方もいろいろです。100人近い患者を担当してきた都内の総合病院の医師は「アビガンは解熱が早まり、倦怠感も軽くなると実感している」と話します。一方、埼玉県内で患者の治療にあたった医師は「はっきり効果があるといえる抗ウイルス薬はなかった」といいます。

アビガンを製造する富士フイルム富山化学も企業としてアビガンの臨床試験を進めていますが、やはり十分な参加者を集められずに遅れています。国立国際医療研究センターの国土典宏理事長は「(比較研究よりも)全ての患者に薬を投与する観察研究の方が、患者の理解を得やすい」と指摘します。

これまで国内で新型コロナウイルスの増殖を抑える薬として厚生労働省に認められたのは、米社が開発したレムデシビルのみ。患者1000人が参加する国際的な臨床試験で、回復が4日ほど早まるとの結果が出ました。

ほかに、炎症を抑える薬としてすでに国内で承認を受けているデキサメタゾンが、重傷者の死亡率を下げるとの海外の結果を受け、コロナ治療薬として認定されました。国が認めているのはこの2つだけです。

エイズ治療薬のカレトラや、ヒドロキシクロロキンも期待されましたが効果を示せていません。回復は主に患者自身の力に頼らねばならない部分が大きいのが現状です。

(2020年7月27日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
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