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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑰「重症者医療の現状」

    • 2021年01月09日(土)
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向上した治療技術 新薬研究は遅れ 冬に間に合わず

新型コロナウイルス感染症の感染者が再び増え、不安な日々が続きます。全国では400人が人口呼吸器を装着し闘っています。重症者を治療する医師は、治療法には進歩があるといいます。一方で治療薬は、大きく状況を改善する効果を上げられていないようです。(森耕一)

蓄積

最前線の病院は、緊張感を高めています。最大六人の重症患者を受け入れられる埼玉県川口市のかわぐち心臓呼吸器病院では11月以降、三人以上の重症者が途切れません。竹田晋浩院長は「冬になれば患者は増えると思っていたが、予想どおりになった」と話します。

湿気にさらされるとウイルスを含む飛沫は重くなり下に落ちますが、空気が乾燥しているとより長く空中に漂います。気温が下がるとウイルスが感染力を維持する寿命も長くなり、寒く換気をしないため長時間ウイルスは部屋を漂い続けます。

一方、経験を重ねる中で有効な治療法が見えてきました。肺に空気を送り込む人口呼吸器は、患者をうつぶせにして使う方が回復が早いといいます。コロナウイルス肺炎は、肺の背中側がより傷んでいることが多く、その背中を上にすることで多く空気を送って休めることができます。血液は下へ多く向かうため肺のうち傷みの少ないおなか側に流れ、効率よく酸素を取り入れることにもつながります。

肺の働きを一時的に弱める筋弛緩剤を併用するのも有効です。竹田さんは「コロナ肺炎患者は息苦しいため強く呼吸しようとして、かえって肺を傷めてしまう」と説明します。肺の動きは抑え、代わりに人口呼吸器でしっかり酸素を送るのです。

人口呼吸器で回復できないと、体外に血液を取り出して酸素を送り込む人工心肺装置エクモが必要になります。竹田さんが代表を務める日本COVID-19対策エクモネットのまとめでは、春には人口呼吸器装着者の4人に一人がエクモに進んでいたのが、現在は8~9人に一人に抑えられています。エクモは多くの医師や看護師らが24時間体制で治療する必要があり、その前で食い止めることは医療を守るため重要です。

こん棒

一方で思ったほど成果が上がらないのが治療薬です。期待されたのは他のウイルスの治療薬。ウイルスは人間の細胞に入って乗っ取り、自分の遺伝物質のRNAやタンパク質をどんどん作って増えます。アビガンはインフルエンザ、レムデシビルはエボラ出血熱で、RNA増殖を止める働きがあります。同じ効果がコロナウイルスでもあれば、有効な治療薬になります。

レムデシビルは海外での臨床実験で重症化を減らし回復を早めると示されたとして、日本でも緊急に使用を認めましたが、世界保健機関(WHO)は先月、効果がなかったとして使用を推奨しないとの見解を発表しました。アビガンも政府が前のめりに増産を進めましたが、なかなか科学的に効果が証明されず、承認に至っていません。日本獣医生命科学大の氏家誠准教授(ウイルス学)は「他のウイルスのために作った薬が劇的に効くというのは難しい。コロナと闘う武器がないから鉄砲になると期待されたが、こん棒くらいかもしれない」とみます。

感染後に免疫が暴走することが重症化の要因になっていることも分かったため、免疫を抑えるステロイドのデキサメタゾンも使用が認められました。効果がある患者もいる一方で、免疫の低下で細菌感染を併発することもあり注意が必要です。

アメリカでは、回復した患者の血液から得られたのと同じ抗体を人工合成し、感染者に投与する抗体医薬も緊急承認され、トランプ大統領も使用しました。大阪大の宮坂昌之名誉教授(免疫学)は「有効な抗体なので他の薬より期待できる」と話します。ただ人工抗体は高価で、誰もが使える薬にはなりません。こうしたコロナウイルスに合わせた新薬研究が世界で進みますが、効果や安全性を科学的に示すには時間がかかり、この冬には間に合いません。

人混みを避け、マスク、手洗いといった基本的な予防策を続けるしかありません。竹田さんは診療する重症者の印象として「糖尿病で、それもきちんと治療を受けてない人が多い」と話します。高齢者や病気のある人は特に注意が必要です。

(2020年12月21日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
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