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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!④「軽症と重症の分かれ道」

    • 2020年06月14日(日)
    • いいね新聞生活

日本の「成功」謎だらけ

新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が2020年5月25日に全国で解除され、街に人が戻ってきました。ただ、この感染症がどんな場合に重症化するのか、なぜ日本は欧米のような感染爆発を回避できたのかなど、まだ分からないことだらけです。次の感染の波が来る可能性は高く、研究を進める必要があります。(森耕一)

アジア系の免疫 遺伝子を解析へ

「奇妙な成功」なのでしょうか。米メディアが日本の状況を、こう報じました。緊急事態宣言が出た2002年4月初旬、日本もイタリアのように何万人もの死者が出ると恐れました。ところが、強制的な行動制限はなく、PCR検査数も伸び悩みましたが、新型コロナが死因とされる人は1,000人未満にとどまっています。

日本人がマスクに慣れ、よく手を洗うことが理由との指摘もありますが、それだけではなさそうです。韓国、台湾、そして中国も、人口10万人あたりの死者は日本人より少なく、欧米と比べて、アジア全体に死者がはるかに少ないのです。

この謎を、遺伝子レベルで解明する研究を始める、と慶応大や京都大などが発表しました。全国40の病院から、感染した死亡、重症、軽症、無症状の計600人の血液を集め、遺伝子を解析します。

無症状や軽症ですむ人と悪化する人では、ウイルスと闘う免疫に違いがあるかもしれません。研究では、免疫に関わるHLAというタンパク質に着目します。HLAはウイルスのどの部分を目印に攻撃するかを決める「司令塔」の役割をします。このHLA、個人によって型に多様な違いがあり、地域、人種によっても異なります。

HLAの型を決める遺伝子を、重症者と軽症者で比較すれば、新型コロナを倒すのが得意なタイプがわかり、重症化リスクの高い人を見つけられるかもしれません。海外の研究と比較すれば、死亡率の差を解き明かす手掛かりになります。

最新科学

感染が急拡大した時期の対策の中心は「感染者を追跡し隔離する」「人と距離をとる」。スペイン風邪が流行した100年前と変わらないものでした。少し落ち着いた今、遺伝子や分子レベルでウイルスの正体を見極め、その形や性質にあった治療薬やワクチンを探す研究が動きだしています。

重要なのは、症状の幅広さの理由を解明すること。当初「新型肺炎」と呼ばれたように、呼吸器の病気と考えられました。ところが、約5%の重篤な患者の症状は全身に及びます。

血管や心臓の炎症、血栓の発生、脳卒中、幻覚症状、腎臓や肝臓の炎症、下痢、目の充血、においを感じなくなることなどが報告されています。症状の多様さは「どの病原体とも異なり、捉えどころがない」(サイエンス誌)もので、全症状がウイルスに直接由来するのかもはっきりしません。

有力なのは、ウイルスを攻撃する免疫の過剰反応が起きているという見方です。免疫に戦闘状態に入るように指示する「炎症性サイトカイン」というタンパク質の一種が過剰に放出され、免疫が暴走して正常な臓器まで壊す「サイトカインストーム」が起きているというのです。

免疫が過剰になると、血管は壊れたり詰まったりしやすくなり、その結果、脳にも障害が起きます。欧米では、子どもの血管に炎症が起きる「川崎病」に似た症状が報告され、免疫異常との関連が指摘されています。

治療薬として、サイトカインの働きを抑える既存薬への期待も高まっています。ただ、多くの臓器に直接ウイルスが感染していることもわかっており、免疫を抑えるとウイルスを増やす恐れもあります。なぜ暴走が始まるのか、遺伝や年齢など個人差はあるのか、などの解明が、適切な治療につながります。

遅れる日本

心配もあります。新型コロナウイルスの研究論文を各国・地域がどのくらい書いているかを、2020年4月に文部科学省がまとめました。首位の中国は1,158本、2位の米国は1,019本なのに対し、日本は17位の56本です。

担当者は、「感染者が多い国・地域で論文も多く出ている」と分析しますが、コロナウイルスが専門の研究者は「日本はそもそもコロナを研究する人が少ない」といいます。コロナウイルス由来の重症急性呼吸器症候群(SARS)が起きて以降、次の流行に備えて研究に力を入れた国がある中、日本にはそうした戦略がありませんでした。

感染が大きく取り上げられる時期だけ大勢で研究するのではなく、息長くウイルスの正体を解き明かす基礎研究を支援していくことが必要です。

(2020年6月1日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
※コロナ禍の緊急事態宣言は解除されていますが、日々の状況は新聞でご確認いただき、感染予防に努めて下さい。