【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑭「PCR検査にノーベル賞技術」
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- 2020年12月05日(土)
- いいね新聞生活
遺伝子を倍々に増やす 微量でも検出
今年のノーベル賞が発表され、残念ながら日本人の受賞はなりませんでした。新型コロナウイルス対策でも、ノーベル賞を受けたさまざまな研究成果が活用されています。中でも1993年に化学賞を受けたPCR法は、すっかり有名になりました。ではPCRって何でしょう。少し深堀りしてみましょう。(森耕一)
連続コピー
PCRは検査法? 実は、それは正確ではありません。PCRは「ポリメラーゼ・チェーン・リアクション」の略。ポリメラーゼはDNAなどを合成して増やす役割をする物質です。チェーン・リアクションは連鎖反応のこと。つまりDNAを増やす反応を連鎖させて、狙ったDNAだけをどんどん増やす化学反応のことなのです。
だから、新型コロナウイルスなどの病原体が唾液や鼻孔の粘液に少ししかなくても、PCRで病原体の遺伝子を増やし、検出できるのです。
病気の検査だけでなく、遺伝子を調べて、がんの治療法を決めたり、犯罪現場のわずかな血痕からDNAを鑑定したり、ブランド牛肉が本物か検査したりするなど幅広く使われます。
3ステップ
詳しく見ましょう。DNAは2本の対になる鎖が絡み合った二重らせん構造です。細胞が分裂するとき、この2本の鎖がほどけ、それぞれの1本に対して、相手のもう1本の鎖を新しく作り、最初と同じ2本鎖DNAを2つに増やします。これを機械で実現したのがPCR。ポイントは温度を変えていくこと。
①まず90度を超える高温にすると、DNAの2本の鎖がほどけてばらばらになります。
②DNAの長い鎖のうち、増やしたい部分の端のほんの少しの部分だけを、あらかじめ作っておきます。ごく短いDNAなら簡単に作れます。温度を50度まで下げると、短いDNAは、1本になったDNAの増やしたい部分にぴたっとつきます。
③ここでDNAを増やす「DNAポリメラーゼ」という物質を入れます。この物質は、短いDNAがあると、その先をどんどん作る性質があるのです。ポリメラーゼが働く70度まで温めると、短いDNAを目印に、新しいDNAを作り始めます。それぞれの1本鎖に相手ができ、2本鎖DNAが二つできます。
①~③の手順で、1つのDNAが2つに増えました。これを繰り返すと、DNAが2、4、8、16と倍々に増え、20回繰り返せば100万個を超えます。
ただし新型コロナウイルスの場合、遺伝物質はDNAに似たRNAという物質です。PCRで使うのはDNAなので、まずRNAをDNAに変換します。この技術も確立されています。
PCR装置の中では、90度→50度→70度の温度変化が繰り返され、遺伝子が倍々に増えているのです。コロナウイルスに特有のDNAの部分だけを増やすので、コロナがいる場合だけ反応が進みます。
さらに、新しくDNAができたとき、そこにくっついて光を発する物質(タンパク質)を入れます。DNAが増えると光が強くなります。PCR装置はこれを検出し、光ればコロナ陽性です。検査に専門の装置が必要なのはこんな過程があるからです。ちなみに、光るタンパク質を発見しノーベル化学賞を受けたのが故下村脩さんです。
型破り博士
PCRの原理を発明してノーベル賞に輝いたのは、米国で80年代、ベンチャー企業にいた故キャリー・マリス博士です。大学教授でなくサーフィン好きな博士は受賞時、その奔放な個性に注目が集まりました。
PCRのアイデアは83年にガールフレンドとのドライブ中にひらめいたといいます。温度を上げればDNAがほどけることや、ポリメラーゼでDNAが作れることなどひとつひとつは既に分かっていた一方、DNAを倍々と無数に増やすなど不可能と思われていた時代です。
こんな単純なことを誰も思い付かないはずがない、と図書館で一週間調べたそうです。でも誰も試みていませんでした。「分子生物学に革命を起こしてやろうと考えたわけではなかった。自分は素人同然だった。もっといろいろな知識をもっていたら、それが邪魔になってPCRは決して発明されていなかっただろう」(早川書房『マリス博士の奇想天外な人生』)
70年代にDNA配列を読む方法が発明されると、解読装置ができ、どんどん高速化され、今世紀になると人間の全遺伝子が解読されました。今年ノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナ、エマニュエル・シャルパンティエ両博士の開発した編集技術によって、DNAをかなり容易に書き換えられるまでになりました。
分子生物学のすさまじい発展は、約40年前に簡単にDNAを増やす手法を生んだマリス博士の功績なしに語れません。今日の感染症克服にも極めて大きな役割を果たしています。
(2020年10月19日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
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