「校閲」という仕事
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- 2019年10月15日(火)
- いいね新聞生活
3年ほど前、石原さとみさん主演の「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」というテレビドラマがありました。人気を呼び、ドラマをきっかけに「校閲ガール」という言葉が一気に広まりました。
石原さんの役は雑誌社の校閲部員でしたが、新聞社にも編集局内に校閲部という部署があります。「校閲記者」と呼ばれる言葉の門番たちが日々、原稿に誤字脱字や用語、内容に誤りがないか、見出しが間違っていないかと、赤鉛筆を手に目を皿のようにしてチェックしています。
もちろん、取材して原稿を書いた本人、原稿に手を入れるデスク、見出しや割り付けをする整理部員、それぞれの段階で気をつけてはいるのですが、中には誤りに気づかぬまま通ってしまう原稿もあります。そこでミスを見つけてくれるのが校閲部。私も取材記者やデスク時代、校閲部員の指摘のおかげで何回、救われたことでしょう。校閲部はミスを防ぐ最後の砦(とりで)であり、新聞の信用を支える大切な存在です。
今年6月に東京新聞(中日新聞東京本社)から「校閲記者の日本語 真剣勝負」という本が発刊されました。以前、東京新聞を中心に連載された、言葉にまつわるコラムをまとめたものです。「へー」「なるほど」と思えるトリビアがいろいろ紹介されています。
例えば、新人を意味する「新米」という言葉。収穫されたばかりの米から来ているものとばかり思っていましたが、語源は「未熟に相当」を意味する「新前」の音が転じた言葉だそうです。ぶぜんとした表情」と言うときの「ぶぜん」。私を含め多くの人は「むっとした」「不満そうな」表情を思い浮かべるでしょう。でも、漢字で書くと「憮然」であり、文字通り心がない様子、つまり「がっくりした」「失意の」表情を意味する言葉だそうです。勉強になりました。
台風シーズンになると、「今年は台風の当たり年」という表現をよく見聞きします。本来、当たり年は「収穫や利益の多い年。縁起の良い年」という意味で、校閲部では「台風の多い年・地震が多発する年」などと言い換えているそうです。豪雨や台風で被害が出たような場合、被災地の人の心情を考えれば、「当たり年」という言葉を用いるのは不適切、という指摘はもっともです。
言葉は生き物です。時代とともに使われ方や意味が変化します。「全然」と言ったら、その後ろは「〇〇でない」と打ち消しを伴うのが当然だったのに、昨今の会話では、「全然、大丈夫」のように肯定や強調の意味で使われることが増えてきました。近い将来、書き言葉でも定着するかもしれません。
校閲部員には国語辞書の編さん者同様、正しい言葉の使い方を守る一方、言葉の変化をつぶさに把握し、新しい使われ方が社会の中でどれほど定着し、許容されているのかを見極める役割があります。校閲に携わる人たちが「地味にスゴイ!」のは、まさに言い得て妙だと思うのです。(有)
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