【コロナ対策】新聞で正確な情報を!謎解きコロナウイルス②「アビガン開発者に聞く」
-
- 2020年04月17日(金)
- いいね新聞生活
化学式見て効くと直感
新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言を発令した7日、安倍晋三首相は治療候補薬として、インフルエンザ治療薬「アビガン」を増産する方針を表明した。開発に携わった富山大名誉教授の白木公康さん(67)は「命を救う薬として貢献できればうれしい」と語る。(森耕一)
「すでに120例を超える投与が行われ、症状改善につながったという報告も受けている」。首相は会見でアビガンへの期待を前面に押し出し、開発企業と協力して臨床研究を進めることを表明。世界30カ国から提供の要請があり、政府は無償供与も始める。
生きた経験
アビガンはインフルエンザ治療薬として白木さんと富山化学工業(現富士フイルム富山化学)が開発。2014年に治療薬として承認され、現在は政府が新型インフルエンザ対策として200万人分を備蓄する。
岐阜市出身の白木さんは1991年に富山大のウイルス学研究室教授に就任。当時は帯状疱疹などを起こすヘルペスウイルスの治療薬を研究したが、既存の薬より効くものはできなかった。
違うテーマでの再出発を目指していた1998年、富山化学の研究者が、同社が持つ三万個の化合物の中から試験管での実験でインフルエンザに効きそうな結果が出た物質として、アビガンを持ってきた。
「構造の化学式をみた瞬間、インフルエンザなどのRNAウイルスに効くなと思った」と、白木さんは振り返る。インフルエンザや新型コロナウイルスは、遺伝子としてDNAではなくRNAを持つ。アビガンは、細胞内に侵入したウイルスが、RNAをコピーして増殖するのに必要な部品によく似た構造をしていた。ウイルスが部品と間違えてアビガンを取り込めば、RNAのコピーができなくなり増殖が止まると白木さんはみた。
長年研究したヘルペスの場合、DNAで同じような働きをする薬が特効薬になっている。アビガンにはこの薬と共通点があると見抜いた。失敗経験が生きた。
結果に期待
動物実験を始めると、マウスでもインフルエンザに効くことを示せた。しかし、富山化学の経営状況が悪化したことや、既にインフルエンザ治療薬があったことなどから治験は停滞。それでも、既存の薬が効かない新型インフルエンザが出現した場合の切り札として2014年に承認された。
アビガンはRNAのコピーという、ウイルス増殖の基本的な仕組みを妨げるため、白木さんは「インフルエンザ以外のRNAウイルス全般に効く」とみていた。実際、2014年からアフリカで猛威を振るったエボラ出血熱にも使用された。標準的な治療薬には選ばれなかったが、ギニアでは死亡率を低下させたとの研究成果もある。
コロナウイルスでも同様の効果を期待して、藤田医科大(愛知県豊明市)が三月に臨床研究を開始。首相はこうした研究成果を念頭に「効果が出ている」と発言したとみられる。富士フイルム富山化学も今月3日にアビガンの治験を始め、6月末までに結果をまとめる。既に増産にも乗り出した。
ただ、アビガンは動物の試験で、胎児に奇形を生じる催奇形性が確認された。人での治験では大きな副作用は確認されなかったが、インフル治療薬として妊婦への使用を禁じている。日本医師会の横倉義武会長もアビガンの治験への協力を表明する一方で「生殖期への影響が強い。注意しながら使うことが重要だ」と強調する。
白木さん自身、コロナウイルスへの有効性が確認されたとしても「いつまでも広く使うのではなく、現在のような緊急事態に命を救う薬という位置付けになる」とみる。一方で「肺の炎症は、高齢になってから後遺症が出ることもある。肺で炎症のある患者には早い時期から投与する必要がある」と指摘する。
(2020年4月14日付中日新聞夕刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
※刻々と変化する岐阜県内の感染状況は、日々の朝刊でご確認いただき、感染予防に努めて下さい。
2018年に大手WEBでは載らない岐阜県多治見市近辺に特化した情報を集め公開スタート。
中日新聞の月刊ミニコミ紙『マイタウンとうと』の記事も一部配信。
マイティーラインに公開している情報のダイジェストを毎週(水)(金)正午にLINEトーク配信しています。