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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑫「コロナ大国・インドの状況」

    • 2020年10月26日(月)
    • いいね新聞生活

いきなり封鎖で混乱 感染抑制できず

アジア諸国は、新型コロナウイルスによる死者、感染者が比較的少なくすんでいます。その中で、インドは感染者380万人、死者6万人超といずれもアジアで最も多く、しかも夏になって拡大の勢いが増しました。今や米国とブラジルに次ぐ「コロナ大国」です。インドの状況は、日本ではあまり報じられる機会がありません。いったい何が起こったのでしょうか。(吉田薫)

ロックダウン

インドで最初に感染者が確認されたのは、南部のケララ州で、中国・武漢から帰国した留学生でした。インド政府は外国人の入国を差し止め、厳しい水際対策を行いました。その後1カ月ほど感染者は発生しませんでした。ところが3月になると患者が増え始めました。

モディ首相は3月19日と24日にテレビ演説を行い「25日から三週間、インド全土を封鎖する」と発表しました。これが「世界最大のロックダウン」といわれる措置です。官公庁も民間企業も工場も学校も閉鎖され、道路も州境で封鎖されるという厳しさで、営業は食料品店や薬局くらいしか許されませんでした。

「最大の問題は、いきなりロックダウンを行ったこと。専門家集団があったのに相談せず、周到な準備はないまま、首相が決めたのです」と湊一樹・アジア経済研究所研究員は話します。反対されることや情報漏れを恐れていたとみられます。

封鎖の期間はどんどん延期され、職を失った出稼ぎ者は都市から地方へ戻ろうとします。歩いて故郷をめざす大集団が発生し、収拾がつかなくなったため、5月には帰省用の特別列車を4,000本も運行し、数100万人を運びました。ところがこの列車が混雑したり、立ち往生したりして、車内で死亡する人が続出したと、現地メディアは報じています。

謎の地域性

デリー首都圏の感染は6月にピークとなり、その後はアンドラプラデシュ、タミナルドゥ、カルナータカなどの各州で増加が目立ちます。

地域によって感染状況は大きく異なっています。新型コロナによる人口100万人あたりの死亡者数を算出すると、インド全体では60人。最も多いのはデリー首都圏で270人、大都市ムンバイのあるマハラシュトラ州の220人が続きます。

少ないのはガンジス川に沿ったビハール州や、東端に位置するアッサム地域の諸州です。これらは百万人あたりの死者が10人未満。日本と同程度かそれ以下です。死者の少ない州は東部に目立ち、また貧しい州が多いのです。デリーと数10倍も違う理由はまだ解明されていません。インド国内にも重症化を防ぐ未知の要素「ファクターX」が存在するようです。

ただし最初に感染者を出したケララ州は、医療と教育のレベルが比較的高く、対策によって感染拡大を防いだ州とされています。

あきらめ

感染者の増勢は衰えていません。デリーの新型コロナウイルス陽性率は4分の1に達しているという研究報告があります。政府がムンバイのスラム街で行った調査では、抗体保有者が半分を超えていたといいます。インドの感染拡大は、行き着くところまで行き着いたのかもしれません。

封鎖は順次解除されています。

「経済が行き詰まり、手の打ちようがなくなったのです。強い指導者であることを示すため、ロックダウンそのものが目的になってしまったように見えます。本来は医療環境を整備するまでの時間稼ぎのはずなのですが」と湊研究員は言います。

インド経済は高成長イメージと裏腹に、コロナ前から不振でした。財政に余裕がなく、現金の直接給付といった対策は、ほとんど行われませんでした。

インドの政策は、混乱による犠牲と経済へのダメージを与えた一方で、感染抑止には失敗しました。

厳しいロックダウンが成功するとは限らない。よほど周到な準備をしないと、うまくいかないという教訓を示しているようです。

(2020年9月7日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
※第二波はまだ続いています。日々の状況は新聞でご確認いただき、感染予防に努めて下さい。