【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑧「いま最強の対策 手洗い・消毒」
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- 2020年08月24日(月)
- いいね新聞生活
ウイルス、どう壊す? 濃度50~80%のエタノール効果
やはり新型コロナウイルスは強敵でした。感染者は再び増加し、研究者が懸命に立ち向かいますが、ワクチンも特効薬もまだ開発に時間がかかりそうです。そんな中で科学的に明確な効果が示されているのが、洗剤やアルコール。手洗いや消毒が感染のリスクを大きく下げてくれる仕組みを、深堀してみましょう。(堀耕一)
1分以内で
店先でシュッと手をアルコール消毒することが増えました。スッと冷たくなりますが、何が起きているのでしょう。「濃度50~80%のエタノールでコロナウイルスはすぐ壊れます。食器用洗剤や液体ハンドソープのほとんどでも、1万個のウイルスが1分以内に感染力を失います」と北里大の片山和彦教授は話します。もちろん手をきちんと洗ってウイルスを落とすことが重要ですが、感染力を奪う効果も期待できるといいます。
製品評価技術基盤機構(NITE)は六月、洗剤の主成分の「界面活性剤」9種類に、ウイルス消毒効果があると公表しました。片山さんの研究室はこの評価に協力し、花王の了解を得て同社の製品の消毒効果も公表しました。ハンドソープや拭き掃除用のスプレー洗剤は、液に1分間漬けると、ウイルスは感染力を失いました。衣類用や水回り用洗剤では、薄めてウイルスを加えると、6種類は10分でウイルスを壊し、1種類には消毒効果がありませんでした。
新型ウイルスに感染すると鼻の奥でよく増えます。症状がなくても感染者が一度くしゃみをすると、平均で1万個ほどのウイルスが唾液とともに飛び出します。マスクや換気も大切ですが、飛沫がかかったドアや家具に触れた手でつかんで物を食べたり、口や鼻、目に触れたりすると、ウイルスは体内に入ってしまいます。
ただ新型コロナウイルスの場合、数個ですぐ感染するわけではなく、数万個といった大量のウイルスにさらされると感染可能性がぐっと高まります。だからこそ、定期的に手のウイルスをリセットすることが効果的。片山さんは「手洗いや洗濯をきちんとする普通の衛生観念をもって生活すれば、過剰に恐れることはない」と話します。
エンベロープ
ウイルスが壊れるとは、どんな状態なのでしょうか。コロナウイルスの場合、一番外側を「エンベロープ」という膜が覆っていて、膜にとげのような「スパイクタンパク質」もついています。洗剤もアルコールも、この膜を壊してくれるのです。
ウイルスは自分自身では増えることができず、人の細胞を「ハイジャック」します。コロナウイルスはスパイクタンパク質を使って鼻や肺の粘膜細胞にくっつき、膜を破って中に入ります。細胞の装置を乗っ取り、自分自身の部品のタンパク質や遺伝子を複製。増えた部品は細胞から脱出する際に、人の細胞の膜を奪い、その膜に身を包んで外に出ます。そう、ウイルスの外側の膜は、人間の粘膜などの細胞の膜そのものなのです。
この膜は「リン脂質」という油分でできています。油を溶かすのは洗剤の得意技です。
油と水は混ざりませんが、洗剤に含まれる界面活性剤の分子には、水に溶けやすい部分と、油に溶けやすい部分の両方がついています。この性質によって、洗剤は油汚れに入り込んで溶かし、包み込みます。水とも仲がいいので包み込んだ油は水に溶けて洗い流されます。
膜を溶かす
ウイルスの表面で起きることも同じ。しっかり泡を立てて手を洗っているとき、油でできたウイルスの膜に洗剤が浸透し、膜を溶かしてしまいます。
アルコールの一種のエタノールも、水だけでなく油とも混ざり合います。頑固な油汚れを高濃度エタノールで落とした経験があるかもしれません。
片山さんによると、濃度50~80%のエタノールが最も効率よくウイルスの油脂の膜に浸透し、すぐ膜を壊します。高濃度エタノールには水分を吸収する力もあり、膜のタンパク質からも水を奪って働けなくしてしまい、とても効率がいいのです。
一方で、普通のお酒のような30%以下の濃度では、素早く膜を壊す効果は確認できず、濃度が80%を超えても膜を壊す速度は遅くなりました。市販の消毒用エタノールの濃度が70~80%の理由がここにあります。
コロナ以外にインフルエンザなど多くのウイルスはエンベロープをもつため、手洗いやアルコール消毒が有効です。エンベロープは乾燥にもそれほど強くないので、数日外気にさらされれば感染力もなくなります。
一方、エンベロープを持たずタンパク質の殻に包まれたウイルスもいます。代表格は食中毒の原因のノロウイルス。エンベロープがないので、洗剤やアルコールは消毒効果が高くありません。乾燥にも強く、乾いた吐しゃ物から空気中にウイルスが漂い感染原因に。熱湯や塩素系漂白剤を使う別の消毒法が必要です。ウイルスの構造や性質を知ると、それに合わせたより効果的な消毒ができるのです。
(2020年8月3日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
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