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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!①「ワクチン開発なにが大変なの?」

    • 2020年05月20日(水)
    • いいね新聞生活

安全確認に費用と時間

新型コロナウイルス感染症から日常を取り戻すにはワクチンの完成が欠かせないとの見方が広がり、世界中で競って開発が始まっています。ところが専門家からは「最低でも1年半はかかる」との指摘もあります。ワクチンはどう病気を防ぎ、なぜ時間がかかるのでしょうか。(森耕一、永井理)

ウイルス対処法 前もって覚える

「有効なワクチンが開発されないと、オリンピック開催は難しい」。2020年4月28日、日本医師会の横倉義武会長はワクチン開発の重要性を訴えました。ネイチャー誌のまとめでは、世界90以上の企業や大学がワクチン開発に乗り出し、少なくとも6機関が、ボランティアに対して少量を接種する初期の安全試験も始めています。

指名手配書

ウイルスや細菌に感染して一度病気にかかると、二度目に同じ病原体に感染しても病気になりにくかったり、症状が軽く済んだりすることが、昔から経験的に知られていました。私たちの体が、最初の感染で病原体への対処法を覚え、二度目は素早くやっつけるからです。

なぜでしょう。体内で病原体を退治するのは免疫細胞たち。ある免疫細胞は、新しいウイルスに出合うとムシャムシャ食べて分解し、その部品を見せて「こんな敵が入ってきたぞ」と知らせます。指名手配書の役割を果たすこの部品を「抗原」といいます。新型コロナウイルスの場合、周囲のとげのような「スパイクタンパク質」が目立つ抗原になりそうです。

免疫細胞は、そのとげの形に合わせた「抗体」という武器を大量に作り始めます。抗体は、とげにぴったりくっついて新型ウイルスだけをやっつけます。また、キラー(殺し屋)細胞と呼ばれる免疫細胞が増え、とげを目印に、ウイルスに感染した細胞ごと壊して増殖を止めます。

初めての敵の場合は、指名手配書を基に武器を作り、キラー細胞を増やすのに数日程度がかかります。その間にウイルスなどが増えると病気になってしまうのです。

二度目に同じ抗原を見つけると、今度はすぐに大量の抗体を作り、キラー細胞も素早く出動します。一度目より早く強力に免疫が働くのです。

それなら、対処法をあらかじめ覚えておけば、最初から病気にならずに済むはずです。その役目を果たすのがワクチンです。18世紀には、英国ジェンナーが、牛痘(牛の天然痘)のウイルスを人間に打つと天然痘にかかりにくくなることを発見しました。これが最初のワクチンでした。

多彩な製法

現在のワクチンはどうやってウイルスなどの抗原を覚えさせるのでしょう。インフルエンザの場合は、ウイルスをホルマリンなどの薬品で壊して増殖しない「不活化」の状態にします。免疫細胞は不活化したインフルエンザの形を覚えるのです。

「不活化ワクチン」のほかにも、ウイルスの毒が弱くなるよう遺伝子の一部を変えて、生きたまま投与する「生ワクチン」もあります。BCGワクチンはこの手法です。

一方、バイオテクノロジーを駆使したワクチン候補も。例えば、遺伝子操作などでスパイクタンパク質を作って注射し、抗原として覚えさせる方法です。同じコロナウイルスで起こる重症急性呼吸器症候群(SARS)では、動物実験で効果が出ています。

さらに、大阪大などは、スパイクタンパク質を作る設計図になるDNAを注射する「DNAワクチン」を研究しています。人の細胞の中で、設計図に基づいてスパイクタンパク質が作られ、それが抗原になります。タンパク質を合成する手間が省けますが、実用化されたDNAワクチンはまだありません。

10年以上も

どの病気にどのワクチンがよく効くかは、人に投与する臨床実験をしないと分かりません。ワクチンは病気の人に投与する薬と違い、健康な人に投与するので、より慎重な安全性の確認が必要です。

まず、低い濃度で少数の人に接種し、最終的には数1000人に投与して安全性や効果を調べる必要があります。大阪大の宮坂昌之招聘教授は「通常、開発には10年以上かかり1000億円近く費やすことも。最終段階で効果がないと分かることもある」と指摘します。

宮坂さんは「過去には試験が不十分なワクチンで大きな健康被害が出たこともある。今回は大急ぎでやっているが、1年半~2年はかかるだろう」と見ています。

(2020年5月11日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
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