【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑤「エクモってどんな装置」
-
- 2020年07月15日(水)
- いいね新聞生活
肺を休ませ回復待つ
新型コロナウイルスは、再び感染者が増え、次への備えを怠れません。重症患者への最後の切り札が、ECMO=エクモ。「体外式膜式人工肺」などと呼ばれ、肺の役割を代わりに担う装置です。近年急速に装置や治療技術が向上したことが、治療に貢献しています。(森耕一)
血液を体外に チームで管理
3機のエクモで重症患者を治療した埼玉県川口市のかわぐち心臓呼吸器病院の院長竹田晋浩さんは2020年2月、全国の医師らと「エクモネット」を立ち上げました。「エクモはあるが、肺炎患者に使ったことがない」との電話を受けると、同じ地域の治療に精通した医師を派遣します。エクモが使えれば助けられるのに装置にたどり着けない患者をなくそうと、24時間体制で全国から電話を受けました。
エクモネットの集計では、2020年6月までに全国で177人がエクモを装着し、うち120人が外せるまでに回復した一方、44人が死亡し10人はなお装着中です。人工呼吸器が必要な重症患者の中でもエクモ装着は特に症状が重い2割ほど。海外ではここまで症状が悪化すれば半数は助からないとの報告もありますが、日本は比較的いい結果が出ています。
竹田さんは2009年の新型インフルエンザでエクモを使って高い治療成績を上げたスウェーデンに留学。最先端の治療を国内に広める活動を続けてきました。「日本のエクモ治療は世界トップ水準になった」と胸をなで下ろします。
長時間
エクモが必要になる重症肺炎では何が起きているのでしょうか。新鮮な空気を肺の奥まで届ける気管支の先端には「肺胞」という直径約0.1ミリの小さな風船のような袋があります。肺に約6億個もあるこの風船の表面には毛細血管がびっしりとついていて、ここで血液は風船の中の空気から酸素を取り入れ、逆に二酸化炭素を風船に送り出します。
ところがウイルスによる肺炎になると、肺胞内は滲出液という水がたまり、壁も炎症で分厚くなって酸素が通りにくくなります。小さな肺胞の中には、死んだ免疫細胞や肺自身の細胞がたまります。空気で膨らむはずの肺胞の風船に汚水やごみがたまり、おぼれたように息苦しくなります。
肺にはごみを排除する機能があり、免疫細胞はウイルスと戦います。新型コロナには特効薬がないため、患者自身の回復を待つしかありません。その間、重症患者には人工呼吸器を装置し、肺に強制的に高濃度の酸素を送って呼吸を助けます。しかし肺炎がひどくなると酸素が十分に取り入れられず、高濃度の酸素がかえって肺を壊してしまいます。
そこで体外で肺の代わりをして肺を休ませる装置がエクモです。二酸化炭素を多く含む血液が流れる静脈に管を入れ、体外に取り出します。エクモ内を進む血液に酸素を送り、二酸化炭素を取り出して血管に戻します。
血液が通る人工肺の内部には管が通り、その中を高圧の酸素が流れます。この管の壁は、酸素や二酸化炭素は通りますが液体は通しません。管の中にたくさんある酸素は血液の側へ、血液にたくさんある二酸化炭素は管へ、濃度の差によって自然に流れます。肺胞と同じ原理を再現しているのです。
ただ、体外に血液を取り出す治療は、感染症などさまざまな合併症の危険と隣り合わせ。装着時には、医師、看護師や臨床工学技士など10人を超える人手が必要です。治癒力に頼る今回は、2週間ほどエクモを動かし続けなければ呼吸が止まるのと同じで、大勢のチームで見守らねばなりません。
エクモ治療には、患者の血がかたまり血栓ができやすくなる難しさもあり、血がかたまりにくくする薬を使用します。このため、患者に流動食を食べさせる管を鼻から入れる作業一つとっても大変です。粘膜が少し傷つくだけで、血が止まらず輸血が必要になることも。竹田さんは「普通は簡単な処置でも、極力出血しないよう細心の注意が必要」と話します。
進歩
エクモの装置もこの20年で進歩しました。エクモは1970年代からありましたが2000年ごろまでは合併症が多く、呼吸器疾患では使われませんでした。国内シェア7割のテルモは装置の改良を重ねました。
装置内で血液が滞ると血栓ができやすいためスムーズに血が流れる設計に変え、酸素や二酸化炭素が通るチューブの壁は長時間使っても目詰まりしない構造に。チューブ内壁は血栓が生じにくい素材でコーティングしました。
全国に1400台のエクモがありますが、心停止など一刻を争う救急現場で使うことが大半でした。同社の山田真さんは「長期間の呼吸疾患の治療でこれほど多く使用することは想像していなかった」と明かします。今後。治療スタッフが別室から血流を確認できるようにして感染リスクを減らすなど、さらなる改良を進めます。
エクモネットは全国で治療法を伝える講習会を始めています。竹田さんは、「再び感染者が大きく増える可能性は高い。人材をできるだけ増やしたい」と話します。
(2020年7月6日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
※東京では感染者が増えて心配ですが、日々の状況は新聞でご確認いただき、感染予防に努めて下さい。
2018年に大手WEBでは載らない岐阜県多治見市近辺に特化した情報を集め公開スタート。
中日新聞の月刊ミニコミ紙『マイタウンとうと』の記事も一部配信。
マイティーラインに公開している情報のダイジェストを毎週(水)(金)正午にLINEトーク配信しています。