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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑥「遺伝子ワクチン、期待と不安」

    • 2020年08月14日(金)
    • いいね新聞生活

承認の例なし

新型コロナウイルス感染症のワクチン開発が世界各地で進んでいます。通常10年はかかるといわれるワクチン開発を、1年で完成させると主張する製薬会社がいくつも。素早い開発の鍵となりそうなのが「遺伝子ワクチン」という、バイオテクノロジーを駆使した最新ワクチンです。ただ他の病気でも承認された例がなく、副作用や効果は未知数です。(森耕一)

高速で開発、設計も自在

「遺伝子ワクチンは、ワクチンの設計図そのものを自在に作り、体に直接投与できる」。開発に乗り出したナノ医療イノベーションセンター(川崎市)の片岡一則センター長がアピールします。

世界保健機関(WHO)によると、世界で160もの企業や大学がワクチン開発競争に名乗りを上げています。うち23グループは既に人に投与して安全性や効果を確かめる臨床試験に入っています。中国が最多7グループ、米国は5、日本からは大阪大の遺伝子ワクチンが試験を始めています。

ワクチンは1度病気にかかると2度目にはかかりにくくなる免疫の性質を利用し、病気を予防します。免疫細胞は初めて出合ったウイルスなどを記憶し、2回目に同じ病原体がきたら、すぐに直接その病原体を壊し、抗体という相手を無力化する武器を発射して発病を防ぎます。

従来のワクチンは、ウイルスや細菌そのものを接種し、免疫細胞に病原体の形を覚えさせます。BCGやはしかの場合は、病原体が生きたままで毒性を弱くした生ワクチン、インフルエンザやポリオでは病原体を殺したり、ばらばらにしたりして活動できなくした不活化ワクチンを使います。

設計図使う

遺伝子ワクチンは、遺伝物質「DNA」を接種します。

DNAは生命の設計図。体をつくり、生きるのに必要なさまざまなタンパク質の作り方が書かれています。DNAは体中の細胞内にあり、設計図を読みとらせてタンパク質を作ります。

この仕組みを応用するのが遺伝子ワクチンで、ワクチンの設計図になるDNAを接種して、細胞にワクチンの働きをするタンパク質を作ってもらいます。コロナウイルスの場合、表面のとげ「スパイクタンパク質」がワクチンの有力候補です。

このタンパク質を作るDNAを注射します。免疫細胞はDNAを取り込んでスパイクタンパクを作り、他の免疫細胞に渡して「これが外敵だ」と学習させます。すると、スパイクタンパクを攻撃する体制ができで免疫がつきます。コロナウイルスが侵入してきたとき素早く対応できるのです。

届ける方法

ただ、遺伝子ワクチンはまだ正式に使用が認められた例がありません。それでもコロナウイルスのワクチン開発で臨床試験に進んでいる世界の先頭集団のうち、約半数はこの遺伝子ワクチンを開発しています。片岡さんは「開発も大量生産も、従来のワクチンよりずっと早くできる」と説明します。

1月末に新型コロナウイルスのDNA配列がわかると、そこからワクチンに使えそうな部分を選び出し、早いところでは3月にはワクチンの人への投与が始まりました。今や、狙ったDNAの配列を作り、大量に増やす技術は、従来のワクチンで使うウイルスやタンパク質を工場で増やすより、ずっと簡単なのです。

もうひとつ成功の鍵が、どのようにDNAを目的の免疫細胞まで届けるか。各グループが技術を競っています。DNAは、ただ体内に入れるだけでは分解されてしまいます。大阪大など、世界の複数のグループはDNAを壊れにくく加工し、注射する際に電気やごく少量の火薬で皮膚に刺激を与えることでワクチンを細胞の奥まで届けようと試みます。

片岡さんらは、DNAではなくもうひとつの遺伝物質、RNAを用いる計画です。狙った細胞とうまくくっつくように設計した「ナノマシン」と呼ぶ特殊なカプセルを以前から開発しており、その技術を応用する計画です。

開発競争で世界の先頭にいる、米モデルナ社も、RNAをカプセルに入れて細胞内に届ける手法をとっており、15日には「初期の治験で接種した全ての人に抗体ができた」と発表しました。

ただ、体内に直接遺伝子を入れると思わぬ副作用が起きるかもしれません。それに通常のワクチン開発でも、うまく抗体ができなかったり、できた抗体に病気を抑える効果がなかったりするケースが大半です。

開発ではまず少人数に少量を接種して安全性を確かめ、最後は多くの人を対象に、ワクチンを打つグループと打たないグループに分けて病気のかかりやすさを比較する大規模な試験をして、効果を科学的に確かめる必要があります。

うまくいけば人類を救う可能性がある遺伝子ワクチンですが、緊急時だからとこうした試験で手抜きをすることは許されません。

(2020年7月20日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
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