【コロナ対策】新聞で正確な情報を!コロナ深知り!⑬「毒性、変化してる?」
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- 2020年11月11日(水)
- いいね新聞生活
弱まった兆候はない 減らない感染者 対策続ける必要
新型コロナウイルスはどのくらい怖いのか-。実はまだ、この問いへの明確な答えはありません。ただ、さらに毒性の強いウイルスに突然変異するということも起こっていません。専門家からは劇的な「変化」がない中で続く感染拡大に、「国民の関心が薄れている」との不安の声も上がっています。(森耕一)
変異
刺激的な論文を世界のメディアが報じました。7月、細胞生物学の分野で知られる科学誌セルヘの米研究者の発表です。新型コロナウイルスに遺伝子の変異が起き、表面のタンパク質の構造が変化し、感染力が高まった可能性があるというのです。
コロナウイルスは、表面タンパク質に包まれたRNAという遺伝物質を持っています。RNAは4種の小さな「塩基」のブロックが、3万個ほど連なった鎖の形をしています。ウイルスは人の体内でRNAの鎖をコピーすることで遺伝子を増やし、増殖を繰り返しています。
増殖にはコピーミスが起きます。遺伝子が変わってしまうと、その情報によって作られるタンパク質の構造も変化することがあり、毒性や感染力を変えてしまう可能性があるのです。
比較
私たちが変異を怖いと感じるのは、変異を起こしやすいインフルエンザの影響も大きいのではないでしょうか。新型コロナとインフルエンザは異なるウイルスですが、症状に類似点が多く、コロナはまだ分からないことだらけなので、インフルエンザから類推して、考えることが多くなります。
A型インフルエンザの場合、表面のタンパク質にはさまざまなタイプがあります。よく聞く「H1N1」「H3N2」などの呼び名はこのタイプを指し、140種類ものタイプがあって頻繁にマイナーチェンジを繰り返します。このことが、一度感染してもまた感染しやすく、強力なワクチンを作れない原因になっています。
また、数10年に一度は、大きな遺伝子の変化が起こる「フルモデルチェンジ」が起きます。同じインフルエンザでも鳥に感染しやすいタイプと、人に感染しやすいタイプの2つのウイルスが同時にブタに感染してしまうようなケースが起きます。2タイプの遺伝子がブタの体内で混ざり合って、全く別の新型ウイルスができます。
新型が人から人へ感染する能力を持つ場合、人が免疫を持たない新ウイルスなのでパンデミック(世界的大流行)が起きる恐れがあり、スペイン風邪のように世界中に多くの死者が出ることもあります。
追跡
新型コロナウイルスでも、こうした変化は起きるのでしょうか。感染者から採取したウイルスの遺伝子解析を続ける国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターの黒田誠センター長は「ウイルスに構造の変化は見られない」と強調します。
新型コロナウイルスでも、遺伝子の部品「塩基」のミスコピーは発生しますが、頻度は2週間に1個程度でウイルスとしては遅い方だといいます。また1ヵ所で塩基の配列変化が起こっても、ウイルスの構造までは変わらないことが圧倒的に多いのです。
実はインフルエンザの方が特殊で、RNAが8つの小さな鎖に分かれているため、遺伝子を大きくシャッフルするフルモデルチェンジを引き起こしやすいのです。コロナウイルスでは、RNAは1本の長い鎖です。
冒頭の論文で紹介した表面のタンパク質の変化は、タンパク質の構造までが変わる比較的大きな変化といえます。ただ、黒田さんによれば「4月以降に流行しているウイルスでは(論文のような)変異はもう起こっていて、このタイプが国内を席巻している」と言います。私たちの身近にあるウイルスは、既にほぼ全てこの変異型なのです。
論文では、変異型の方が試験管の中で人の細胞に感染する力が強かったため「感染力が強い可能性がある」と報告されました。一方、最近は死亡率が下がっているため、ウイルスは弱毒化しているとの見立てもありますが、感染研の脇田隆字所長は「毒性や感染力が変化している証拠はない」と強調します。
感染力や毒性の変化を調べるには試験管の中だけでは不十分で、マウスなどに感染させて病状を観察する必要があります。新型コロナウイルスでは人間の病状を再現できるようなモデル動物がまだできていないため、こうした研究も難しいのです。
飽き
長期的には、ウイルスは徐々に毒性を弱める方向に変化しやすいという傾向があります。一方で強毒化する可能性も消えてはいませんが、今のところウイルスはその性質を変えていない可能性が高そうです。
感染研の担当者は、「大きな変化がないなかで国民が三密という言葉に飽きてきているのではないかと感じる。現状では感染者が減る要因はない」と危機感を語ります。刺激的な情報に飛び付くのではなく、ウイルスそのものに変化がない以上、感染を避ける対策を続けていく必要があります。
(2020年9月21日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。
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