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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!/コロナ深知り!⑲「イベルメクチンなどの転用」

    • 2021年04月21日(水)
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有効性見極め難しく

新型コロナウイルスの感染を防ぐワクチンの接種が世界で進められています。一方で、すでに使われている薬の中に、新型コロナに効くものがないか世界中で探られています。寄生虫駆除薬「イベルメクチン」などで新型コロナに対する効果を調べる臨床試験(治験)が行われていますが、見極めが難しく、認められた薬はまだ限られています。(増井のぞみ)

既存薬承認は二つ

イベルメクチンは、大村智北里大特別栄誉教授らが静岡県で見つけた最近がつくる物質をもとに開発された錠剤です。アフリカや中南米などで主に使われ、失明に至ることもある寄生虫感染症「オンコセルカ症」などから多くの人を救ってきました。大村さんはこの功績で2015年、薬を開発した米企業の元研究員とともにノーベル医学生理学賞を受賞しました。

✔24ヵ国

昨年4月、オーストラリアの研究チームが試験管内の感染細胞に、イベルメクチンを投与したら新型コロナウイルスの増殖を抑制する効果があったと発表しました。北里大によると、イベルメクチンを使った新型コロナの治験は、1月末時点に世界24カ国で74件登録されています。

新興国で「死亡率が減少した」など効果を示唆する結果が多い一方「改善しなかった」との治験もあります。いずれも規模や方法の信頼性の面で議論があり、米国立衛生研究所(NIH)は「適切に計画された治験が必要」としています。英仏米も、治験に乗り出しました。

日本では昨年9月、北里大病院(相模原市)を中心に各地の病院が協力して治験を始めましたが、思うように進んでいません。PCR検査の陽性判定から三日以内の軽症患者が対象です。240人の患者をイベルメクチンを投与する人としない人に分け、陰性になるまでの期間が短くなるかどうか調べます。

3月末までに終わる予定でしたが、3月末時点で集まった参加者は57人。今冬の「第三波」で軽症患者は自宅療養などになり入院できず、治験が進まなかったのです。治験代表者である北里大の山岡邦宏主任教授(膠原病・感染内科学)は「新興国で良い結果は出ているが科学的信頼性が高くない。薬の有効性や安全性は衛生環境、医療体制などで違ってくるので、日本人に対しどうか治験で明らかにしたい」と語ります。世界保健機関(WHO)は3月31日、イベルメクチンの効果を示す証拠は不確実で、治験以外の一般の治療に使うことは勧めらないとの見解を出しました。

✔2日で

日本ではイベルメクチンに限らず、新型コロナの軽症向けの薬は承認されていません。なぜなのか。名古屋大の岩見真吾教授(数理科学)らが3月、新型コロナの治療が難しい理由を解明したと発表しました。

同じコロナウイルスで過去に流行した中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)と比べ、新型コロナはウイルス排出量がピークに達するのは早く、発症後二日程度でした。たとえ強力にウイルスを抑える薬でも、ピーク後に治療を始めるとウイルス排出量を減らす効果が十分発揮できないことも分かりました。

通常、発症後二日の段階では、自宅待機やPCR検査の結果待ちの人が多いとみられ、岩見さんは「病院で早期の治療を始めるのが難しい」と指摘します。もし有効な薬でも、治験で投与のタイミングが遅すぎると「有効性がない」という結果が出る可能性もあります。

✔個人差

新型コロナの薬の有効性を見極める難しさは他にもあります。琉球大の植田真一郎教授(臨床薬理学)は「重症化するかどうかに個人差が大きい」と語ります。薬が効いて重症化を抑制したか、自らの免疫で回復したか分かりにくいのです。その点を明らかにするには、治験の参加者をできるだけ多く集めた方がいいですが、すると期間が長引いてしまいます。

植田さんは1月から、新型コロナの軽症患者100人を対象に、痛風の抗炎症薬「コルヒチン」の治験を進めています。コルヒチンは英国の重症患者の治験では効果なしでした。しかし、カナダなどの自宅待機患者の治験では「入院のリスク減少」との結果が出ました。イベルメクチンと同じく安価な経口薬で、植田さんは「効果を示せれば、世界の最貧国にも供給できる」と期待しています。

すでに承認され他の病気の治療に使われている薬が、新型コロナにも有効と分かれば、転用して早く治療に使えると期待されてきました。しかし転用が承認された薬は国内でまだ二つです。治験にいろいろな制約もあり、効果があるかどうか見極めが難しいのが現状です。

(令和3年4月5日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。

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