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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!/コロナ深知り!⑳「国産ワクチン、なぜできない」

    • 2021年06月07日(月)
    • いいね新聞生活

空白の15年、つけ今も

新型コロナウイルスのワクチン接種は少しずつ進んでいますが、毎日のように混乱も伝えられます。「国産のワクチンがあれば」と思いますが、開発は大幅に遅れています。原因のひとつは、日本のワクチンの開発力が低いこと。1990年代以降、ワクチンの開発や普及に消極的だった結果だと、専門家は指摘し「ワクチンの大切さを子どものころから伝える教育が必要だ」と訴えます。(森耕一)

社会全体での研究支援必要

✔遅れ

昨年1月、新型コロナウイルスの遺伝子のRNA配列が解読されると、米国のモデルナ社は25日後にはワクチンを作り、63日後には人に注射する治験にこぎつけました。米ファイザーと組むドイツのビオンテック社もほぼ同じ、驚異的な開発スピードでした。

「彼らは突然、開発に成功したわけではなく、ずっとRNAワクチンの研究をしていた」。北里大の中山哲夫特任教授は話します。病原体の遺伝子の一部を人体に入れて、免疫を準備させる全く新しい技術を信じて、基礎研究を続けてきた成果が花開きました。加えて米政府が「ワープスピード作戦」として、開発段階から治験や製造の準備も並行して進め、失敗を恐れず大量の予算を投入したことも、成功につながりました。

世界トップの動きと比べると、国内の製薬会社は大きく遅れています。国は塩野義製薬、第一三共、アンジェス、KMバイオロジクスの四社に資金を投入しますが、いずれもまだ大規模な治験をはじめられていません。政府は、ファイザー、モデルナ、英アストラゼネカの三社と、人口を超える数のワクチンを契約していますから、契約通りに輸入され、一度の接種で済むようなら、国産ワクチンの出番がない可能性もあります。

✔衰退

なぜ、差がついてしまったのか。中山さんは「日本にはワクチン空白の15年があった」と指摘します。1993年から2007年にかけて、政府が新しいワクチンをほぼ承認せず、製薬会社もワクチン開発をしない期間が続いたため、技術や人材の蓄積がないというのです。

日本も60~70年代は国とメーカーが協力してさまざまなワクチンを開発し、世界から遅れてはいなかったといいます。ただ同時に、ワクチン接種後に、まれに脳炎などが起き、障害が残るケースもあることが問題になりました。ワクチンは免疫反応を起こすため、その本来の働きの中でも炎症を避けられず、ワクチン接種が原因の副反応(副作用)が起こることもあります。一方で、問題が起きたようにみえても科学的に因果関係がないケースもあります。

ワクチンは大勢の人で治験をしてリスクを測り、問題を完全にゼロにはできなくても、病気を防ぐ効果がそれを上回ると評価されて承認されます。こうしたワクチン接種後の有害事象についての集団訴訟で、92年、東京高裁は国が過去の集団接種で十分な事前説明をしなかったとして、科学的に副反応と認定できるかどうかにかかわらず国の責任を認定しました。

翌93年には、MMRワクチンに含まれるおたふくかぜワクチンで、約千人に一人が無菌性髄膜炎を起こし、死亡例もあったことに世論が反発し、定期接種が中止になりました。

中山さんは「メディアが大々的に取り上げたこともあり不信感が高まった。国はこれ以降、何もしなければ問題はおこらない、という姿勢になった」と指摘します。空白の十五年が始まり、国から支援が得られないワクチン研究も衰退しました。

この間、多くのワクチンの承認や定期接種化も諸外国に比べて遅れました。細菌性髄膜炎を予防するインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンや小児用肺炎球菌ワクチン、感染性胃腸炎を防ぐロタウイルスワクチン、B型肝炎ワクチンなど。ワクチンで病気が防げたケースもあったはずです。

✔効果

天然痘はワクチンによって撲滅され、定期接種によって多くの感染症が防げるようになりました。ところが、ワクチンが私たちの体の中で働いてくれているときには、効果が見えにくいのが現実です。何も起きないことこそワクチンの効果です。一方で不幸にして重大な副反応が起きると、苦しむ人の姿は私たちの心に強く訴えます。

ワクチンは健康な人に接種することもあって、害がないか慎重に検討しなければならないのはもちろんですが、副反応に対して効果が実感されにくい面があるのも事実です。

中山さんは、「子どものころから、ワクチンが体を守ってくれていることを伝える教育も重要だ。副反応の話だけ聞かされれば、ワクチンを避けてしまう」と訴えます。新型コロナが落ち着いたら、社会全体で必要なワクチンの普及や研究を支援できるよう、効果や副反応をどうとらえるべきかもう一度考えてみる必要があるかもしれません。

(令和3年5月24日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。

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