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【コロナ対策】新聞で正確な情報を!/コロナ深知り!㉔「抗体医薬㊤ 治療現場から」

    • 2021年12月04日(土)
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早期投与の体制づくりを

新型コロナウイルス感染症の軽症者向けの治療薬二つが今夏と秋、それぞれ使えるようになりました。どちらも、ウイルスに結合しヒトの細胞への侵入を防ぐタンパク質「抗体」が主成分の抗体医薬です。これらの薬が重症化を防ぐ効果を上げるため大事なのは、投与のタイミング。今後の「第六波」に備え、現場の医師らは「早期に投与できる体制づくりが重要」と指摘します。(増井のぞみ)

重症化の予防には発症からの7日以内

抗体2種類を混ぜて投与する「抗体カクテル療法」は、50歳以上や肥満、慢性腎臓病など重症化リスクがある人が対象。7月に特例承認された時は、酸素投与を必要としない軽症と中等症の入院患者への点滴投与だけでした。8月には外来、9月に往診が可能になり、11月初めには条件付きで、発症前の予防投与と皮下注射も認められました。

9月初め、昭和大学病院付属東病院(東京都品川区)に、抗体カクテル療法を受ける外来第一号の50代患者女性が訪れました。女性は「せきやたんが出て体がだるい」と医療スタッフに症状を説明。30分間の点滴投与とその後の健康観察など計約2時間滞在し「ありがとうございました」とスタッフに会釈。行きと同じく、専用タクシーに乗って帰りました。

✔国内3万6千人

国内では約3万6千人がこの療法を受けました。昭和大でも11月15日までに入院と外来合わせ患者45人に投与し、42人が3日以内に解熱。ただ、残る三人は、発熱が長引いたり酸素投与が必要になったりするなど改善しませんでした。3日以内に解熱したものの、アレルギー反応や発疹の副作用が出た人が2人いました。

患者の3分の2はコロナワクチン未接種で、3分の1は、ワクチン接種後にコロナに感染した「ブレークスルー感染」でした。昭和大の田中明彦准教授(呼吸器・アレルギー内科)は「抗体カクテルは、ワクチンを打てなかった人の重症化予防に期待できる。ワクチンも万能ではないので、抗体カクテルにはワクチン接種後のセーフティーネットという意味合いもある」と強調します。

課題も浮かびました。抗体カクテルは早期投与が効果的なため、受けられる期間は発症から7日以内。しかし「第五波」のピークが過ぎた9月でも「抗体カクテルが必要なのに、自宅でがまんした末の診断遅れや、病院へ行く交通手段がないなどで受けられなかった人が少なからずいた。体調が悪いときは早めに診断を受けてほしい。早めに治療を受けるには交通手段が重要」と田中さんは話します。

✔交通手段

コロナ患者の搬送車は、感染予防のため、客席の空気が漏れないよう陰圧にし、運転席と隔離しなければいけません。都は、10月半ば、従来の専用タクシーに加え、抗体カクテルを想定して対策を施したタクシー50台を確保しました。

事情があって自宅を出られないコロナ患者の場合、医師が往診する抗体カクテル療法も始まっています。都のモデル事業として、西田医院(東京都調布市)の院長で内科医の西田伸一さんは10、11月に一件ずつ往診で点滴しました。10月に往診した女性は、ワクチンの二回接種が済んでいましたが感染し、点滴後に症状が改善しました。

✔医師が往診

女性は、同居家族の世話のため自宅を離れられず「不安のなか往診してくれて心強かった」と喜んでくれたといいます。西田さんは「自宅療養者を支援する医療システムの構築や、病院以外で治療できる中間施設の確保、さらにどこでも早期に抗体カクテルを投与できる体制を整える必要がある」と語ります。

国内でコロナ治療の抗体医薬は二つあります。抗体カクテル療法の「ロナプリーブ」と、9月に特例承認された抗体一種類の「ゼビュディ」です。ゼビュディは、重症化リスクのある軽症や中等症の約190人が点滴投与されました。どちらも、欧米の製薬会社が技術開発した薬です。「科学技術立国」とうたう日本で、コロナの治療薬はまだ開発されていません。後編は、コロナやその次を見据えた抗体医薬の研究現場の状況を報告します。

(令和3年11月22日付中日新聞朝刊より)※この記事は、中日新聞社の許諾を得て転載しています。

※南アで新変異株(オミクロン株)が確認され、第六波も心配です。日々の状況は新聞でご確認いただきながら、くれぐれも感染予防に努めて下さい。