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イチロー新聞

    • 2019年04月02日(火)
    • いいね新聞生活

3月21日夜、大ニュースが飛び込んできました。米大リーグ、マリナーズのイチロー選手(45)の引退です。同日夜に東京ドームであったアスレチックス戦を私もテレビで見ていたのですが、午後7時過ぎだったでしょうか、ネットで「イチロー選手 現役引退」の一報が流れ、しばらくしてテレビでもテロップが流れました。日米通算4367安打を放ち、数々の記録を打ち立てた不世出のバットマンの引退-。メディアが大展開しないわけにはいきません。ただ、時間が時間です。しかもこの試合が延長十二回までずれ込んだため、本人の記者会見が未明となり、大半のテレビ局は午後11時前後のニュースで中途半端にしか伝えられませんでした。物足りなさが残りました。果たして新聞はどうだろう。翌日の朝刊にはそれなりの記事が載るだろうが、大展開となると時間が足りず、朝刊段階では厳しいのではないか-。そう思いながら就寝しました。

翌22日朝、ポストから取り出した中日新聞に目を見張りました。一面は統一地方選幕開けとなる道府県知事選告示を脇に押しのけて、トップで「イチロー引退」の記事。下部のコラム「中日春秋」もイチロー選手引退の話です。運動面では、シーズン最多262安打や10年連続ゴールドグラブ受賞など輝かしい足跡を一覧表や写真入りで詳しく掲載。2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で一緒に戦ったドラゴンズの与田剛監督が、鮮烈な思い出とともにねぎらいの言葉を寄せていました。

左右見開きで展開した社会面には「イチ時代 終演」「心打ち抜いた」の大見出し。記事では、広角打法を磨いた父鈴木宣之さん(76)との少年期のエピソード、愛工大名電高時代の恩師中村豪元監督や、イチロー選手が子ども時分に通い詰めたバッティングセンターの経営者、イチロー杯争奪学童軟式野球大会に出場した児童のコメント、街頭の声‥。いずれも引退の一報を受け、社会部や運動部、支局の記者たちが、デスクの指示で関係者に直接、あるいは電話取材をし、名古屋の繁華街に飛び出して声集めをした結果です。

これは出社して分かったのですが、締め切り時間が遅く、名古屋エリアに配達される最終版には、イチロー選手の引退会見の一問一答も入っていました。さらに、最終版は社説までもが、多治見の自宅で読んだ朝刊の社説と異なり、「ありがとう、イチロー」に差し変わっていました。「イチロー選手の生き方は、人生にとって最も大切なことを教えてくれる」と最大級の賛辞を添えて。 1面、社会面、運動面、特設面の写真グラフ、中日春秋、社説まで、この日の朝刊はまさに“イチロー新聞”でした。これだけの紙面を割くに値するイチロー選手の偉大さをあらためて痛感しました。同時に、限られた時間の中で、これだけの紙面を作り上げてしまう新聞社の機動力、携わる人たちの心意気に、同じ新聞社で働く人間としてちょっと誇らしい気持ちになりました。(有)